頭が悪くて

 とにかく頭が悪い。多分これは障害なのだと思う。
 人の名前に始まり、仕事の手順、必要な知識。何もかも覚えられない。
 正直、結構工夫して努力をしてきた方だとは思うのだけど、ついぞデキる男にはなれなかった。

 考えてみれば、九の段、カタカナだ。
 どちらも本来、小学生2年生で誰もが習い、特段の努力を要することなく身に着けることができる(と、そのように聞き及んでいる)。
 おれは頭が悪くて、小学校5年生になってやっと何とか使えるようになったのだった。
 そこから部活を辞めたり遊ぶことを放棄したり、それこそ一日数時間だとかそういう努力の果てに悪くない高校へ進学したわけだけど、入学にそこまで努力した人間は高校にはほぼいなくて、あっという間に高校でドンケツになった。
 他人が当然のようにできることを努力しなければできないということは、努力が当然とされる場所では手も足も出ないのだということ、そして自分がそうなんだということについて、もう少し真剣に考えておけばよかった。

 そんなわけで大学受験もうまくゆかず、司法試験の勉強もうまくゆかず、まあもうこれだけ何もかもうまくいっていないのであれば良い加減自分がアホなのだと気付いてもよさそうなのであるけれど、そこもアホゆえに中々気付けず、高能力を要する職業にしれっと就いてしまったのである。

 高能力を要すると書いたけど、多分実際にはさほどでもないと思う。おれにとっては、という話だ。
 そこからどんなことになったのかはご想像にお任せする。小出しにするかもしれないが、ともかく今はお任せしたい。

 この年になってやっと自分がアホだと受け入れられるようになってきて、色んなことを諦めた。

 何かを積み重ねても空しくなるだけだし、何かを判断しても一から十まで間違っているし、何かに挑戦したとてロクなことになりはしない。

 だけど無駄にこざかしく教育を受けてしまったが為に、疑問だけはふつふつと湧き上がってくるのである。自分で良し悪しさえ決めることのできない人生とは、一体なんなのだろう。何かを目にしてもすぐ忘れてしまうような頭でもって、何かを経験したり見たりする必要があるのだろうか。生きてていいものなのだろうか、と。

 もはやこの文章が他人に読んで理解のできるものであるかどうかさえ自信が無い。
 誰かが解ってくれるといいな、と思う一方、当然、諦めてもいる。