何でもない日々246

「あー、さむさむさむ。」 朝7時、バイクに跨り誰にともなく呟いた。つくづく焼きが回ってしまったようで、最近独り言が多くなった。 数か月前、カブを知人に譲りバイクを乗り換えた。ジクサー150SFという単気筒の普通二輪だ。それに伴って、通勤も電車から…

スピリチュアルにすがろうとした。

今年に入ってからの不運を数えると、頭が痛くなる。 タイで車に轢かれ、親友を喪い、旅に出ようと思えばバイクが故障し、大雨に降られモバイル機器が壊れ、たまたま入ったぼったくりバーで金を巻き上げられ、先日またしても車に轢かれた。 買ったばかりのバ…

姉と仇と妹

ある朝、スマホの通知履歴を見ると見知らぬ番号から着信があることに気づいた。留守電が入っていた。「初めまして、急にお電話を掛けてすみません。私、H子の妹です。もしご迷惑でなければ、お電話頂きたいです......。」 あどけなさの残るその声は緊張で震…

大丈夫、明けない夜はないのだ。

ある夜、やりきれない気持ちで公園のベンチで一人コンビニの缶チューハイを飲んでいると、足元に茎の折れた花が咲いているのを見付けた。 誰かに踏まれたのだろうか。植物には詳しくない。紫色の花の名前を検索したけれど、よくわからなかった。 その花を根…

亡霊を追う

3月14日の朝、H子は宣言どおりその命を裁った。https://datchang.hatenablog.com/entry/2020/03/15/191526 いいや、間違いなく私自身がこの手に掛けたのだ。 あれから3か月、漫然と日を経た。彼女から託された遺言のうち、果たせたものもあれば果たせない…

杏仁豆腐と過ごした一週間戦争。

家庭を持ったら、猫を飼おうと思っていた。妻がいて、子どもがいて、そういう間取りを猫が横断していくような空間の体温に憧れを抱いていた。 紆余曲折あって、私にはそもそも妻子を持つのが難しいんだろう、という現実をようやく、少しずつ受け入れられるよ…

今も未だ旅の途中であること

小学4年生のある年、京浜急行の出展で私の描いたマリーゴールドの花の絵が表彰を受け、電車の広告に数日貼り出されるということがあった。 それは理科の、花を観察することにかこつけた課題だったのだ。しかしこうして目立つような事態になることは、私にと…

彼女は雨の日の夕暮れみたいで

昼休みに会社を中抜けした私は、日比谷のカフェで男を待っていた。 待ち合わせの時間にはまだ早いけれど、少しでも約束を確実なものにしたかった。 店内は薄暗く閑散としていた。元号が令和になったというのに銀ブラよろしく昭和の歌謡曲がほんのり流れ、レ…

空に舞う

東京・丸の内。 近代的なガラス張りのビル群の一角に、タイル張り旧耐震のビルが建て替えもされずに鎮座している。都市開発で遠からず取り壊される予定のこのビルには多数の企業が入居している。 あたかもそこで働いているかのような顔で正面玄関から入り、…

49日は祈ることにした。

「誕生日までに死ぬ。」と宣言した親友は、その言葉どおり逝ってしまった。 3月17日、それが親友の誕生日だ。 数年前のその日、私たちは牡蠣の食べ放題にでかけた。ふたりとも牡蠣が大好物だった。 今はもう潰れてしまったけれど神田駅の近くにあるおせっか…

海原の月になりたい

クラゲを見たいと思った。 先日、池袋サンシャイン水族館に行くとコロナウイルスの影響で休館となっており、5年前に引き続きまたしても入館し損ねてしまった。本当についてない。せっかく会社を休んだことも無駄になってしまった。 といって行く当てもなく…

私たちの望むものは

一 「もう、殺して。」 とそういうことを彼女に言われたのは、一度や二度のことではない。私はその度、「そのときが来たら、オレがやってやるよ。」 と返すのだった。「約束だからね。」 と言う彼女に、「約束するから、勝手に死なないでね。」 と返していた…

死に至る病について

「おはよ」 彼女が勢いよくカーテンを明けると、陽光が差し込んできた。部屋の空気を温かく照らし、さらさら流れているのがわかる。「この部屋、眺め良いね」「そう?うん、南向きだからかな」 ベッドに寝そべり空を見あげると、白い雲が風に流され少しずつ…

女しか使えない文字

一昨年、中国の湖南省を旅しているときにある深山の古潭に数日ほど滞在していた。友人の結婚式に参加する為だ。 中国で最も貧しい地域であり、外国人の訪問も滅多にないような場所であるだけに歓待され、私の拙い中国語にも拘わらず興味を以て話を聞いて貰い…

粗野に扱っていい人

「粗野な人間がいるわけではない。粗野に扱って良い人間がいるだけだ。」 とそんなことを言ったのは誰だっただろう。たまにこの言葉を思い出しては、それこそ正に自分のことだと思いいたる。 先日デートをドタキャンしたあの女の子もきっと、大事な人が相手…