2019-01-01から1年間の記事一覧

疾走

先日、30歳の誕生日を迎えた。 かつて「30歳まで生きることはないだろう」と思ったことのある多感な人たちの多くがそうだったように、私もそのご多聞に漏れることなくあっさり誕生日はやってきて、20代に何の余韻も残らなかった。 よほど覚えづらい誕生日な…

マルチの女

Y子は千葉県出身で、国立大学に在学している時分、公認会計士試験に合格した。 最大手の外資系監査法人に就職したが、監査法人の仕事はブラックで終電帰りもザラだった。 学生時代から付き合っていた男は浮気して離れて行った。意識が朦朧とし、その間どのよ…

The smell of raindrops, won't you say you'll be alright

高校生のとき、当時遠距離で付き合っていた彼女に会うために、バイクの免許をとった。 当初は交通機関を使って通っていたのだけれど、バイクがあれば色んなところに彼女を連れて行けるし、彼女をバイクの背に載せて海辺を走るような、そういう青春に憧れてい…

In to the wild.(荒野へ)

鏡の向こうには、グランドキャニオンが広がっていた。 それを見て、おれはただ、立ち尽くすしかなかったのだ。 先月某、髪の毛を切りに近所の1,000円カットへ出かけた。どうせポマードで整えるのだ、高いところへ行く必要はない。 7・3のツーブロック、サ…

自分には、ほとほと失望した。

ある朝、まだほの暗い時間帯に、少し早めの電車に乗った。 もう30分もすれば身動きがとれないほどの人であふれる乗車駅だけれど、この時間ではまだ「ふつうに立って乗ることができる」。 発車し、寝起きのぼんやりした頭で景色を眺めていると、まもなく次の…

後ろ手に束ねた 恥じらいの花束が揺れる 

都会のサラリーマンなんて、字面で見れば華やかに見えるけれど実際のところ物理的に拘束されてその我慢料を手にしているだけに過ぎない。 そうして毎日時間と心を切り売りしている内に、トルストイが家庭の幸福の中で「人生における唯一の確かな幸福は、他人…

世界最大級の廃墟 華南モールからの脱出

数年前、中国の東莞という南方の都市を旅しているときに「華南モール」を訪れたことがある。 華南モールは一時世界最大になったこともある中国最大のショッピングモールで、中国のいわゆる建築バブルのときに建造された。 ところがその広さゆえに十分なテナ…

家へ帰ったことに免じて

深夜、満身創痍の身体を引きずって家の扉を開くと、暗い廊下の奥で干してある洗濯物が人の姿に見えることがある。 首を吊って、風もなくギシギシと音を立て揺れる自分自身の亡霊だ。 壁の電気を点けると亡霊は消え、いつもの何もない部屋がある。 部屋には大…

夜明けの西成・泥棒市場

まだ陽の昇らない時間帯、空気は肌を刺すように凍てついている。 紆余曲折あって数年ぶりに大阪は西成区のあいりん地区にいた。 朝の5時くらいになると、労働福祉センターの周りにはホームレス崩れの日雇い労働者を現場まで連れて行く為のバンがちらほら現…

サンフランシスコの韓国人

10年前、サンフランシスコに短期留学をしていた。 そのとき撮った写真を見返していたら、一人の韓国人の女の子のことを思い出した。 名前を彗林(hye lim yoon)といった。 韓国人らしい顔つきの美人で、いつもヒョウ柄や妙な色味のちょっとどこかエキセント…

何億年も前につけた傷跡なら残って

目を覚ますと、いつもの天井だった。 カーテンから白い光が差し込んで、塵の浮いた部屋の空気を照らしている。 嫌な汗をかいている。思わずため息をついた。 また、いつもの夢を見た。 * 中学の頃、ネットでは中高生の間で「前略プロフィール」というサイト…

死にたい。いつからか、そう思うようになった。

死にたい。いつからか、そう思うようになった。 自分が恵まれてないなんて思わない。 そりゃ上を見たらキリがないけど、やりたいように生きてきたと思う。その割には多くの人に愛して貰った。 そして世の中にはおれよりバカでブサイクで、どうしようもない人…

祖父の友人の話

1950年代の終わり、東京の新橋。 男は友人から流行らないバーを買い受け、経営を始めた。 それは後から考えてみれば半分酔狂のような雑な経営で、当然バーが赤字から回復することはなかった。 男には投機癖があった。 焦った男は、バーの経営を補填したい一…

見捨てられた町で。

神奈川県川崎市の海辺の工場地帯に、その集落はある。 第二次世界大戦中、日本第二位の鉄鋼業JFEスチール(旧日本鋼管)は、急増した武器需要に対応するため労働人夫として半島から朝鮮人を大量に採用し、日本に連れてきた。 いわゆる、徴用工である。 JFEは…

ここじゃない何処かの国に、希望なんてあるんだろうか。

先日、某企業から招聘を受けて上海に行ってきた。 上海に到着する飛行機から外を眺めていると、夕日で真っ赤に染まった海に点々と風力発電のタービンが突き刺さっていて、まるでエヴァンゲリオンのLCLの海に刺さった十字架のようで、幻想的な光景だった。 空…

宗教勧誘についていった

「君、だっちゃんだろ?」 大学の図書館の前で携帯を弄っていると、男に話しかけられた。長身で爽やかで、清潔な身なりをした如何にも好青年という出で立ちで、知らない顔だった。 どちらさまでしょうか、と応える前に男が続けた。 「わかんないか。S法律研…

出会い系のサクラだった

10年前、紆余曲折あって金欠になった。 知り合いのツテで仕事を紹介して貰えることになり、代官山駅近くにあるビルに出向いた。 三度もインターフォンと監視カメラのついた扉を経て、地下の一室に通された。 カーペット張りの床に、長机と椅子が幾つか置いて…

できれば、何も食わずに暮らしたい。

生産的な活動なんてしていなくとも、生きてるだけで腹は減る。 今ではすっかり信用を失った政府・総務省の家計調査によると、単身世帯の食費は直近(2018/7~9)で43千円/月となっており、単純計算で一食当たり1,424円と、人は生きてるだけで中々の金額を消耗し…

ブラック研修体験記

「内定です、おめでとうございます!」 第一志望の企業から連絡を貰ったときは、本当に嬉しかった。某大手旅行代理店だった。 旅行業界を志望したのは、海外旅行に良い思い出しかなかったからだ。旅を企画するワクワク感に囲まれて働くのは、きっと楽しいこ…

老後のことを考えると、本当に辛くなる。

数年の社会人経験を経て、自分が組織に絶対的に向いてないことが判った。 といって、自分で稼ぐことができるようにもならなかった。目ぼしい資格を持っているわけでもない。 ならば我慢をしなければならないのだけど、正直、この苦行を後35年できるかと問わ…

ストラテラとコンサータ

起きると、処方薬が切れていた。病院へ行くことにした。 その日は気温も高く、何とか外出くらいならできそうだった。 薬は効かないけれど、気休めにはなる。それに、1錠でも多く睡眠薬を補充しておくのは首吊りの確実性に貢献する。それは悪いことではない…

ドラッグあんぎゃ

経年劣化の為なのか、安物だったからなのか、そもそも縄が細すぎたのか。いずれにしても縄は切れた。 ひとまず丈夫そうな縄をネットで注文した。 年始の繁忙期で、届くのに数日はかかりそうだった。 この数日を乗り越えねばならない。 例え幻想によるもので…

蜘蛛の糸

ある朝起きると、身体が床に沈み込み、暗闇の中に落ちていった。 夕方頃になってようやく布団から這いずり出す。全身が鉛のように重かった。 トイレへ行き、顔を洗った。食事は喉を通らず、空になった胃のままを薬を飲んだ。 ふとコップを握っている手から目…

筋トレで心は救われない

筋トレをするとテストステロンが分泌されて前向きになり、「うつ状態」が治る、予防できる。難しいことは判らないけど、そういうことになってるらしい。 だからというわけではないけど、おれも筋トレをする。 身体の中で①胸、②背中、③腿の筋肉は特に大きく重…

もんじゃの人

初めてもんじゃを食べたのは、大学生のときだった。 昔から人間関係がすこぶる苦手で、友達は決して多くない。いつだって人生に何かしら問題を抱えているような態度をして、荒んだ振る舞いをしているのだから当然のことだろう。もはや厄介な習い性のようにな…

砂上の楼閣

昨日エントリで「思い出の品を大体捨てた」と書いたのですが、辛すぎるので高校時代から使っている外付けHDDの過去データの復旧をしていたら、なんと、中高時代のブログの残滓が出てきました。(大学、院、社会人時代にmixiやはてなで書いていた日記は復旧で…

合理的さの末路

東京の暮らしは忙しくて、心をすり減らした。 毎晩残業続きで、深夜の帰宅。飲み会もある。だけど婚活も勉強もしなければいけない。 結局、睡眠時間を削ることになる。 こうなると日常生活に支障を来すので、睡眠を1分でも多く確保する為、生活の色んな部分…