筋トレで心は救われない

 筋トレをするとテストステロンが分泌されて前向きになり、「うつ状態」が治る、予防できる。難しいことは判らないけど、そういうことになってるらしい。

 だからというわけではないけど、おれも筋トレをする。

 身体の中で①胸、②背中、③腿の筋肉は特に大きく重要で、そこを鍛えるトレーニングは「BIG3」と呼ばれ、筋トレをどれだけやっているかの指標になる。
 おれのスコアは①ベンチ50kg、②デッドリフト160kg、③レッグプレス1,000kg。
 手首を故障している為①は低いものの、②③のスコアを見れば筋トレをする人であればそれなりに「やった」のだと判って貰えると思う。
 週5,6ペースで、仕事終わりや昼休みに①、②、③と順に回転させていった。①の日は負荷が軽くオールアウト(体力を全て使い果たすこと)ができないので、時間が許せば腕等の小さい筋肉も鍛えた。

 筋トレを終えると頭の中が真っ白になり、余計なことを考えずに済む。やはり脳内麻薬でも出ているのか、ある種の気持ちよさもある。
 筋肉が大きくなるのは面白いし、楽しいと思う。ジムはアクセスの良い所に通っているし、時間も1日1時間もしないので、それ自体を負担だと思ったことはない。

 しかし、筋トレが心の中の何かについて、根本的な解決に寄与していると思ったことは一度もない。

 寝るときにはこのまま目の覚めないことを祈り、起きては祈りの届かないことを呪う生活を、もう何年も続けている。

 筋トレは、自傷行為だと思う。
 ためらい傷のように外傷ではないし、見目として健全に見えるけど、身体を傷つけ一時的な興奮状態になり、身体の痛みと引き換えに心の痛みを誤魔化すという点で相違ない。

 そして痛みは騙せても、ダメージは日に日に累積していく。
 心が悲鳴を上げるのに合わせて筋トレの強度を上げ、誤魔化す。身体はどんどん逞しく、健康になっていった。
 だけど、身体を動かしているのは心なのだと知る日が来る。

 ある日、起きると床の中に沈み込んでいて、天井がはるか遠く、穴の中から這い出すことができなくなった。