ドラッグあんぎゃ
経年劣化の為なのか、安物だったからなのか、そもそも縄が細すぎたのか。いずれにしても縄は切れた。
ひとまず丈夫そうな縄をネットで注文した。
年始の繁忙期で、届くのに数日はかかりそうだった。
この数日を乗り越えねばならない。
例え幻想によるものであろうとも、この今まさにここにある心の痛みと身体の倦怠は本物の苦しみだ。
薬は効かない。ドラッグが必要だった。タバコや大麻みたいなダウナー系ではない、アッパー系の違法薬物が必要だと思った。
ただ、ツテが無かった。
ネットであったかいのつめたいのと言ってる連中に声をかける気にはなれない。あれでは足が付き過ぎる。
しかし西成の闇市でも山谷でも、そしてクラブでも、ラリった人間ならいくらでもいるけれど、覚醒剤そのものにお目にかかったことはない。
昔、ヤク中で口の中がボロボロに溶け切ったソープ嬢に聞いた手段がいくつかある。
深夜、新宿駅の近くで立ちんぼをしていると、黒人がやってきて後ろに立ち、耳元で幾つか質問をする。それに応えて金を渡すと、手にビニール袋を握らせてくる。
中野の路地にある自販機の前で地べたに座り込むと売人がやってきて、金を渡すと売人はジュースを買う。そいつが去ると、釣銭を入れるところにビニール袋が入っている。
本物のヤク中の言葉自体の真偽は勿論だけど、どうにも確実とは思えなかった。
おれは見た目がちゃんとし過ぎている。売人だって相手を選ぶんじゃないだろうか。
それにそれは数年前の作法で、今どうなってるかは判らない。
手元には100万円ある。
何度も熔かした金だけど、100万円は大金だ。これだけあれば世界中どこへでも行くことができる。
ネットで見たLSDの体験談では、イスラエルのテルアビブで手に入れたと書いてあった。
イスラエルには行ったことが無いけれど、テルアビブがジャンキーにとって有名な土地だということは知識として知っていた。
LSDで宇宙を見て、覚醒剤を打ち、死海を抜けたところにある砂漠に歩いて入る。いずれ体力がなくなり、戻ることはできなくなるだろう。中東の太陽が照らして、じきにおれも砂になる。
岡田徹のPVを思い出した(https://www.youtube.com/watch?v=-WzFnFrlYAs)。
「入砂」とでも呼ぶべき美しい死にざまには憧れさえ覚える。
だけど、テルアビブまで行って手に入れられなければどうする。
いや、もっと確実な方法があった。マドリッドには、おれのことを誘ってくれるスペイン人の友人がいるのだった。彼の力を借りればいい。
コーディネータを雇い、金を渡せば確実にドラッグを手に入れる方法がマドリッドにはある。
エクスペディアで航空券とホテルを調べたところ、どちらにしても数日10万程度で行くことができる。
と、そこまで調べてそれがかなりの長い道のりとなることが判った。今のおれに、片道24時間を超える長い旅路を耐えきる体力があるのだろうか。尻込みする。
既に一日の活動限界を迎えており、この日は一旦保留にして寝ることにした。