ストラテラとコンサータ

 起きると、処方薬が切れていた。病院へ行くことにした。
 その日は気温も高く、何とか外出くらいならできそうだった。

 薬は効かないけれど、気休めにはなる。それに、1錠でも多く睡眠薬を補充しておくのは首吊りの確実性に貢献する。それは悪いことではない。

 通院している医者との折り合いがうまく行ってなかったので、少し遠くのクリニックで、年始からやっているところに行くことにした。電話をかけると、今空いてるということだった。
 首都圏で簡単に予約の取れる精神科は多くない。案の定、ネットでの評価も高くなかった。

 診察を受けるとテストのようなものを受けさせられ、「コンサータ」が出た。強力な薬なので滅多に出ないし、医者も出したがらないもの、らしい。

 処方されて、その場ですぐに飲み込んだ。
 暫く歩いていると強烈な頭痛がした。多分副作用なのだろう、ロキソニンを飲んでバスのベンチに座り込んだ。
 一息ついて、また少し移動する。頭痛が出そうになって、その場で休む。
 そうして健常な身体なら30分で済む岐路を3時間近くかけて帰り、帰宅する頃には風呂に入る気力も歯を磨く気力もなく、コートのまま布団に倒れ込んだ。
 ただ、肉体は満身創痍だったものの、意識は「寝ることはできるけど、起きていようと思えばずっと起きていられる」という独特の状態となっていた。

 翌朝起きると、頭痛は収まっていた。再度コンサータを飲んで、気付いた。
 身体が動く。

 数日じっとして過ごしていたからか身体は節々が痛むし、倦怠も未だ残っている。
 けれど、食欲も性欲も戻ってきているようだった。筋肉にもしっかり力が入る。
 これまで処方されてきたストラテラのような精神の揺さぶりや、強烈な吐き気もない。

 コンサータは、覚醒剤に含まれるアンフェタミンと同効のメチルフェニデートという成分が含まれていて、要するに合法的な覚醒剤だ。コンサータは薬効が徐々に出て来る構造らしく、いわゆる「キマる」ことは無いと言われている。
 だけど、それでも効果はヒロポンよろしく疲労がポンという感じだ。
 じゃあ、違法覚醒剤に手を出そうとしていたおれの判断は間違ってなかったわけだ。医者を替えてなければ、今ごろ...などと、せんもないことを考える。

 そして後日「丈夫な縄」が届いて、考えた。
 手元にはまだ資金が残っている。精神はともかく、まともに動く身体が戻って来て日常生活が支障なく送れるのなら、ひとまず生存だけはしてやってもいい、と。
 だから今こうして、ことの経緯を書いている。

 新しく届いた縄は、耐久実験にも耐えた。
 もう天井に縄をかけることに躊躇もない。今まで机上の空論のように漠然としていた死への道のりが、この手にある。


 一度はっきりとした輪郭をもって現れた希死念慮は実体を持ち、夜になるとやってきて、甘い言葉をささめき彼岸に引きずり込もうとする。
 嵐がやってくる。縄はまだ捨てられない。